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■師匠の祟り
修験の山の滝行場にある籠り堂で聞いた話です。
春先でお堂の中はまだ寒く、囲炉裏にあるストーブに薪をくべて
暖をとりながら山伏たちは思い思いに体験談を語っておりました。
「俺は若い頃、原因不明の難病で死にかけたんだ。やっとの思いで
修行の道に入り、助かったんだ。」
「それは神仏のご加護ですねぇ、」
仲間の山伏たちは口々に山の神をたたえた。
「いやそれが、とんでもない話なのさ」
御神酒を飲みながら初老の山伏は言い出した。
「どうしたんです、たたりにでもあいましたか。」
若い山伏が訊ねた。
「そうよ、たたりよ、それが神仏のたたりじゃないんだ、俺の師匠のたたりよ。」
男は御神酒の入った湯のみをぐっと飲み干し、絞り出すような声で言った。
「俺の病気は師匠が取り憑いていたんだ。それも、今生この世の話じゃない、
前世の師匠なんだ。」
男はうつむきながら苦渋に満ちた過去を語り始めた。
今から、500年ほど前、俺はやはりこの土地で山伏だった。
そのころ俺たちの所属する流派は盛況で跡目相続争いが熾烈だったのさ。
俺の師匠だった山伏は法力の優れた長だった。ところが内部抗争で殺され
俺も殺された。無念の思いからか、俺が殺したと信じていたんだ。
俺がこの世に生まれ変わって来たとき、成仏できずに迷っていた師匠に出会ってしまった。
事情のわからない俺はわびて供養をしたさ。しかし、祟りのためか難病になり、医者にも見放され
病を治すため再び山伏として行の道に入った。
それからというもの、取り憑く師匠をなだめ札に納めてずっと抱いて行に明け暮れた。
やがて10年が過ぎる頃ようやく難病が治り、師匠が現れた。
「それでどうなったんです?」もう一人の山伏が訊ねた。
あぁ、師匠が泣きながら言うんだ。すまないことをした。犯人はおまえではなかったと。
俺は訊ねたよ、「一体どういうことですか?」すると師匠はあの時、儂もおまえも殺されたんだ
儂の勝手な思いこみからおまえが儂を殺したものだと信じておまえを病気にしてきた。
しかし、おまえは濡れ衣にもかかわらず儂を思い、供養をしてくれた。
ようやく憎しみも和らいだとき、本当のことが分かったのさ。おまえは無実だ。
そして儂は取り返しのつかないことをしてしまった。かつての弟子になんと言うことを
してしまったのか。そういって泣くんだよ。
俺は訳が分からなくなって「では、誰が俺たちを殺したんですか?」と聞いた。
「誰なんです?」若い山伏が二人声を合わせて訊ねた。
すると師匠は言った。
「当時の一番弟子、つまり生まれ変わって今のおまえの父親だ。これからあいつを病気にしてくれる。」
思わず俺は叫んだね。
これからも祀ってやるから、もういい加減にしてくれってさ。
若い山伏達は思わず顔を見合わせた。
おもむろに男はその札を懐から出すと札の絵姿がにやりと笑った。
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