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■結婚詐欺の女
その日、彼女と3回目のデートだった。
今日こそは、一夜を共にしようと考えていた。
さりげなく、シティホテルのレストランへ食事に誘い、最上階の
バーで夜景を見ながら口説くチャンスを待っていた。
そこへ彼女に女友達から電話がかかってきた。
たわいもない話を始めたので、ふと彼女の後ろに目をやったとき
僕は凍り付いた。
年の頃は初老で威厳をたたえた和服の男が立っていたのだ。
明らかにこの世の人ではない彼は私の視線に気付き、
「おまえ、見えるのか?」といった。
頷く僕に、「ならば、忠告する。こいつに関わるな。」
じっと僕を見据えて消えた。
するとちょうどそのとき、彼女の電話が終わった。
「ねぇ、酔っぱらっちゃった。」
彼女のお泊まり催促のサインと気がついたがとてもそんな気分になれない。
「悪いが僕は帰るよ。」
「えーなんでー」とブーイングが入ったがためらわず、お開きにした。
未練がなかったといえば嘘になるが、あの射抜くような目をした男の存在が
怖かったのだ。
それからしばらくして、風の便りに彼女が結婚詐欺で捕まったと聞いた。
僕もカモにされかかっていたのかどうかはわからないが、なぜ、あの後ろの
男は教えてくれたのだろうか。
金のない僕からまとまった金を取れるはずもなく、真剣だったと信じたいが
一度ぐらいは夜を共にしてみたかった。
■走り回る日本人形
私は山間に小さな庵を結ぶ修験の行者です。
知り合いの神主さんが血相を変えて紙袋を抱えて私を訪ねてきました。
「どうされました。」
「いや、とりあえず、お祓いをお願いしたい。」
「え、お宮でなさればよろしいではありませんか。穢れものですか?」
「いや、言うことを聞かんのです。なんとか縛ってありますのでなにとぞよろしくお願いします。」
そういって、挨拶もそこそこに、紙袋を置いて帰られました。
「これはやっかいなものらしいな。どれ、中身は何かな。」
開けてみれば、愛らしい、日本人形が一体、縄で縛ってあった。
聞くところによるとこの人形は神社にお祓いで持ち込まれたものらしいのだが、その神社は人形供養は受け付けていなかった。
困ります、と言う巫女さんに押しつけるように置いて行かれた人形を仕方なく受け取りました。
夕方になって社務所を閉めようとしたとき、日本人形は社務所の中を走り回ったのだそうです。
ちょうど居合わせた巫女さん3人は絶叫して逃げ回り、先ほどの神主さんが何とか捕まえ、お祓いをしたのですがきかず、結局私のところへ持ち込んだと言うことだそうです。
乗り移っていた、子供を亡くした母親の念をとき、清祓いをしてお焚き上げ供養を行いました。
その時の巫女さんは3日間神社を休まれたそうです。
■私鉄人身事故
私がある私鉄に乗っていた時の事です。
踏切にさしかかった時、電車はスピードを落としました。
ふと足元を見ると床からこの世の人ではない男の両手が見えてきました。
やがて、私の両足首とつかみ、床から若い男がはい上がってきました。
周りを見渡し血まみれの顔を私に向けて、
「助けてくれ。くるしい。」
「おまえは誰だ。」
私の問いかけには答えず、というより状況が飲み込めてない様子で、
「ここはどこだ?」
「ここは**電車の中だ。」
「そうだ、私はこの電車に飛び込んだ。あぁ、頭が痛い、何とかしてくれ。」
「もうおまえは死んだのだ。痛みはないはずだ。行くべきところに行くがいい。」
「いや、俺はここにいる。何とかしてくれ。」
「わかった。供養をしてやろう。待っていろ。」
そういうと男はまた、床の下に消えていった。
私は帰って約束通りに飛び込み自殺をしたであろう若い男の供養をしてやった。
翌日、新聞を見ると小さな記事があり、電車の床に飛び込み自殺者の頭部が挟まっていたと伝えていた。私の乗った電車はまさしくその電車だったのだ。
■溺死体のしるし
私はこの夏出張でとある地方の旅館に泊まりました。
古い町並みが続く山間地の旅館で隣は大きな池のあるお寺でした。
旅館の周りには何もなく、食事をすませた私はテレビにも飽きて
早めに休むことにしました。
夜中に息苦しさを感じて目を覚ますと寝汗でぐっしょりと夜具が濡れていました。
「おかしいなぁ、こんなに汗をかく事なんて無いのになぁ、」と思っておりますと、
「苦しい、たすけてー」と声がお寺の方からかすかに聞こえてきます。
私は怖くなって廊下に出ますとたまたま旅館の方がおられて、布団を変えて欲しいと言いましたところ、じっと私の顔を見られて、
「寝苦しいようでしたらお部屋を変えましょうか。」と言ってくださいました。
「これは助かった」と思い他の部屋に変わりようやく眠ることができました。
なんでも、昔お寺の池で何人も溺死をされたことがあったらしいのです。
この旅館の方も亡くなられて一時あの部屋に安置されていたらしいのです。
このことを会社に戻り同僚に話をしたところ僕もそこに行って肝試しをしてみたいと言い出すものがいて、止めるのも振り切って、その旅館にのあの部屋に泊まったのだそうです。
「みろ、何ともなかったぞ。」と誇らしげに帰ってきた同僚の首にはくっきりと
ロープで絞めたような跡が残っていました。
言い忘れましたが、あそこに安置された方は藻が首に絡まってロープで絞めたような跡があったそうです。
■山寺のお狐憑き
ある山寺で聞いた話です。
そこは修行の滝があり、たくさんの行者達が籠り行をしていました。
籠り堂には滝守の方がおられて行者さん達や参拝者のお世話をされておりました。
その滝守さんが言うには昔、この山には霊力のある狐がいて、その狐を祀ってお狐付きになりたいとこられる人がいたそうです。
その滝守さんがこの山寺に来られる前、滝守をされていた方もお狐付きになられた方でたくさんの方が慕ってお見えになっていたそうです。
そのお狐さんを祀ってお狐付きになると7年間強力な霊力が与えられるそうです。
この前の滝守さんは病気直しや株と不動産売買に力を発揮されて多額の財産を蓄えられ、7年が過ぎて霊力が無くなると山を下り、豪邸を建てられ優雅に暮らされたと聞きました。
さて、どのようにお狐さんを祀れば善いのか、何かをしなければならないのか、今はもう方法を知る人はいないと言うことです。
もう少し詳しく知りたいとも思いますが残念です。
山には不思議なこともあるものだなぁと思います。
■憑かれた女
春先からつきあいだした男性の実家は地方の旧家だ。
先代のおじいさまが興した事業を元にお父様が建設業を始め大きくされた。
お盆を前に彼と一緒に実家を訪ねることになった。
なんでも、昔は家の土地だったという裏山には風光明媚な池があるらしく
観光地としても地元では有名だというのだ。
夏の旅行をかねて母親に紹介すると言われ、行ってみる決意をした。
実家について早々母親には挨拶そっちのけで彼は裏山の大きな池に私を誘った。
案の定母親に小言を言われた彼は私を車に残して家の中に消えた。
そこへ老婆が私の処へやって来て言った。
「あんたが成駒屋さんの若女将になる人かい?」
「え?成駒屋さん?成田さんの息子さんの友人ですけど。」
「ふん、どっちでもいいわい。知っておかなならん事があるからな。
この成駒屋さんはごうつくの金貸しで人でなし。ようけの人が首くくって死んでるんや。あんたもここの人間なるんやったらよう肝にすえときや。」
冷たく射抜くような目で見据えられ、ぞっと身震いがした。
そこへ彼が戻ってきた。
「あぁ、ごめんごめん。待たせたね。お袋が昼飯を食ってから行けってうるさくてね。
暗くなるといけないからって断ってきた。」
気味の悪い思いをした私は彼が運転席に座るなり聞いた。
「ねぇ、今のおばあさん、誰なの?」
「え?誰?」
「ほら私の横にいたでしょう?」
「気がつかなかったなぁ、近所の婆さんかな?」
「なんでも成駒屋さんがどうのこうのって、すごく気味が悪いのよ。」
「おかしいなぁ、成駒屋さんっていえばおじいちゃんの頃の屋号だけどこの辺には当時を知っている人はもういないはずだけどなぁ。ま、変なこと気にするなよ。これから景色のいいところに行くんだし。」
「そうね。」
私は気味の悪い婆さんが言った内容よりも「若女将になる人かい?」と言われたことがうれしくて気にしないことにした。
その裏山の池に行くにはうっそうとした山道を登って行かなくてはならない。
しばらく走ると彼が悩み出した。
「おかしいなぁ、もう見えてもいいはずなのに。道を間違えたかなぁ。」
「そこに民家があるわ、道を聞きましょうよ。」
「あれぇ、この山に民家なんかあったけな、ま、聞いてみるか。」
二人は車を降りてずいぶんと古ぼけた民家に入っていった。
「すみません、誰かいませんか。」
居間に入った二人の目に飛び込んできたものは鴨居に並んでぶら下がる3人の首つり自殺者だった。
どこをどう通って帰ってきたのかも記憶にないぐらい恐怖に駆られて実家に戻った二人は今見たことは誰にも話さないでおこうと言い合った。ただ、私が気味の悪いおばあさんから言われたことは彼にしっかりと伝えた。
恐怖の体験をのぞくと和やかに実家での挨拶もすませ、都会に戻った二人にはしばらくこのことはタブーだった。
ひょんな事から、彼があの、自殺者の話をしたとき、私は愕然とした。記憶が全くないのだ。恐怖故に忘れたわけでもない。なぜならば、あの時大きな池に行った記憶があるのだ。
彼は全く行っていないと言う池に二人で行き、楽しかった記憶があるのだ。そして、老婆の記憶も無いのだ。
私はあの時眠っていた。後日、彼は今は亡きおじいさんがかなり強引な取り立てをして一家が自殺に追い込まれた話を地元で聞いてきた。私はそのことを告げるために霊に乗りうるられたのだろうか。それとも彼が狐にバカされたのだろうか。
あれから2年ほどして私たちは別れた。
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